ハンガリーのペーチにあるジョルナイ文化地区(Zsolnay Kulturális Negyed)は、歴史ある陶磁器メーカー「ジョルナイ」の旧工場跡地を再生した文化と芸術の複合施設です。
2010年にペーチが「欧州文化首都」に選ばれたことを機に、再開発された素敵な地区です!
美術館、ギャラリー、劇場、レストラン、子供向けの公園もあり、現地の人々の憩いの場としても、観光スポットとしても人気があります。
家族経営だった「ジョルナイ」のジョルナイ一家が実際に住んでいた住居も改修されていて、内部の見学も可能です。
私はジョルナイの陶器やタイルのファンなのですが、2024年10月にジョルナイ文化地区をじっくりと見学してきました。
ジョルナイ陶器の素晴らしさはもちろんのこと、家族経営だったジョルナイ一家の歴史や、ペーチの産業・文化について知る貴重な機会となりました。
ペーチに1泊以上する方には、ぜひ足を伸ばしてもらいたいおすすめの場所です。「いつか行ってみたいな」という方も含め、ぜひ最後まで記事をご覧ください🎉
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りり / 旅行大好き
ハンガリーの首都、ブダペスト在住19年
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東京で旅行会社に4年勤務経験あり
ヨーロッパに長年いるけれど、実はインドや暖かい国が大好き
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ジョルナイ文化地区とは?
現在のジョルナイ文化地区には、19世紀末から20世紀にかけジョルナイ一家の住居と工場があり、工場の従業員たちもこの一帯で暮らしていました。
20世紀初頭に繁栄を極めたジョルナイブランドですが、第一次世界大戦後に経営困難に陥り、第二次世界大戦後の社会主義時代には国有化されてしまいます。
ジョルナイの名声は徐々に衰退、社会主義体制が終焉を迎えた1990年代初頭には、国有化された工場の設備が老朽化しており、敷地全体も荒廃が進んでいました。
しかし、ペーチが2010年にヨーロッパ文化首都に選ばれたことが、荒れ果てたジョルナイ文化地区の再開発の大きなきっかけとなります!
ヨーロッパ文化首都のプロジェクトの一環として、歴史的なジョルナイ製陶所跡地を文化的、観光的な目的で再生し、都市の文化振興と経済発展を図ることが決定。
再開発には、工場の歴史的建物の修復と新しい施設の建設が含まれていました。これにより、ジョルナイ文化地区は単なる産業遺産の保存を超えて、アートや文化、教育の拠点として再生されました。
美術館やギャラリー、人形劇場、カフェ、ショップ、公園などが集まる複合施設として整備され、ペーチ市民や観光客にとって文化的なオアシスとなっています!
ジョルナイ陶磁器の歴史とジョルナイ家
1853年に創業したジョルナイ製陶所は、1865年にジョルナイ・ヴィルモシュ(Vilmos Zsolnay)が兄から家業を受け継ぎ、陶磁器の製造に特化することで急速に成長しました。
ジョルナイ・ヴィルモシュは技術革新に力を入れ、陶磁器の品質向上に注力。1860年代には、陶器だけでなく、装飾用の建築タイルや高級磁器の製造に乗り出し、ペーチの工場は徐々にその名を知られるようになります。
ジョルナイ製陶所の最大の革新は「エオシン釉薬」の開発で、金属的な光沢と虹色に変化する美しい表面が特徴です。
この技術はジョルナイ陶磁器を他の製品から差別化する要因となり、国際的な評価を得るきっかけとなりました。
特にアール・ヌーヴォー様式の作品において、この釉薬の美しさが際立ち、芸術作品としても高く評価されました。
ジョルナイ家の家族メンバーは、製陶所でそれぞれ重要な役割を果たしていたことでも有名です。
ヴィルモシュの娘のテレーズとユーリアは陶磁器のデザインに関与し、当時の女性芸術家の地位向上にも貢献。息子のミクローシュは経営面での役割を果たし、父のヴィルモシュが築いた基盤を引き継ぎ、事業の拡大に努めました。
地質学者のテレーズの夫は陶磁器に向く土探しで貢献、建築家のユーリアの夫は工場の建築および芸術監督として活躍、家族全体が事業の成功に寄与し、ジョルナイ家は陶磁器産業および地域の芸術文化の発展にも影響を与える存在となりました。
ジョルナイ文化地区の見どころ紹介
ジョルナイ文化地区の敷地は約5ヘクタール。なだらかな丘の斜面にあります。
主な見どころを全て回れる共通チケットを購入した際に「最低でも見学には3〜4時間はかかります」と案内があった通り、私は4時間以上を費やしました。
各見どころの個別チケットが販売されていますが、時間のある方は共通チケットを購入して、興味のある場所は全て覗いてみるのがおすすめです。
チケット情報詳細:https://www.zsolnaynegyed.hu/en/information/ticket-sales
- ジョルナイチケット(共通券 / 購入日と翌日の2日間有効)…7,900フォリント
<学割や家族チケットもあり> - 個別のチケットを買う場合は、1か所につき2,000〜2,800フォリント
「ヘリテージチケット(共通券 / 購入日から4日間有効)は9,900フォリントで大変お得です。ジョルナイ文化地区と市内をじっくり見て回りたい方におすすめします!
ペーチ市内の「世界遺産・ペーチの初期キリスト教墓所」を含む遺跡3か所に入場できる見学の時間が限られている場合は「ジョルナイの黄金時代」「ジョルナイ家と工場の歴史の展示会場」を、個人的にはおすすめします。
「ジョルナイ家の霊廟」も印象に残る場所でした。
実際に現地で撮った写真を多めに使って、情報をまとめたので参考にしてください。
ジョルナイの黄金時代 – ジュジ博士のコレクション
ハンガリーからアメリカへ移住したジュジ・ラースロー氏(Dr. Gyugyi László、1933−2024)が個人的に集めていた700点のジョルナイ作品を展示している会場です。
1870〜1910年までの「ジョルナイの黄金時代」と呼ばれる作品の数々が並ぶ、ジョルナイ文化地区の中でも見どころが詰まった展示会場です。
時代ごとにジョルナイの特徴が現れていて、「歴史主義」「ミレニアム」「アール・ヌーヴォー」の3つの区分に分けられます。
建物の上の階は「歴史主義」および「ミレニアム」時代の作品が並びます。
初期の作品については、私が個人的に知っている「これジョルナイっぽい!」というものとは少し違う趣。
また、担当する陶芸作家によって、作品それぞれの特徴が見られるのが面白いです。
1896年の「ハンガリー建国1000年記念 = ミレニアム」に合わせ、ジョルナイ・ヴィルモシュが新しい釉薬技術を開発し「ミレニアム技法」と名付けます。
これが、後ほど「エオシン釉薬」と呼ばれ、ジョルナイの名を世界に広めることになりました。
建物の下の階は「アール・ヌーヴォー」の時代の展示の見学ができます。
創業者のジョルナイ・ヴィルモシュが1900年に亡くなった後、息子のミクローシュが工場の経営を引き継ぎ家業を発展させた時期の作品です。
ジョルナイを象徴する技術「エオシン釉薬」と「アール・ヌーヴォー」がかけ合わさった、美しい作品の数々が並んでいます。
いわゆるジョルナイといって想像する玉虫色の作品から、複雑な色合いやモチーフの作品まで、時代毎に並べられた展示を楽しめます。
これほど多くの素晴らしい作品を、個人が所有していたということに驚きました!
ジョルナイ家と工場の歴史の展示会場
1880年からジョルナイ家の全員が暮らしていた家が、ジョルナイ家と工場の歴史の展示会場になっています!
受付の方のおすすめで、上の階から見学することにしました。階段や廊下の一部は当時のオリジナル素材が残っているようで、時代を感じられます。
ジョルナイ・ヴィルモシュが絵付けの試しに使ったお皿も飾られていました。
1880年代に工場で働いていた絵付け担当者たち(第1世代)の集合写真や、工場の従業員と出かけた5月のピクニックの様子など、工場に関わった人々の記録も残っています。
ジョルナイは工場内に技術を学べる学校を設立し、労働者の子供たちがそこへ通い、親子代々ジョルナイで働くケースが多かったそうです。
オーストリア=ハンガリー帝国で最大の製陶工場となり、700人近くの従業員が働いていました。
奥の部屋では、ジョルナイ家の人々の写真や家具などが飾られています。実際にこの場所にジョルナイ家の人々が住み、働いていたと思うと感慨深いです。
絵の才能もあったというジョルナイ・ヴィルモシュの作品も飾られていました。
受付のある下の階では、ユニークな薪ストーブの展示が印象に残りました。薪ストーブに使われていたタイルが美しいです。
受付の正面に「シガールーム」という小さな部屋があるので、扉を開けてこちらも覗いてみてください。
黒いタイルの薪ストーブや、星を散りばめたような天井が豪華で独特な部屋です。
ピンク色のジョルナイ展示会場
ジョルナイが製作した美しいピンク色の陶器作品を展示するユニークな部屋です。建築家のウィンクル・バルナバーシュ氏が親から受け継いだジョルナイのピンク色の水差しが気に入り、その後1000点以上をコレクションするに至りました。
1880年代に商品開発の始まったピンク色の製品は、最初はほとんど手作りだったため、少しずつ形が異なるそうです。
気軽に使える日用品としても愛されてきた、ピンク色のジョルナイ製品の数々をお楽しみください。
なお、ピンク色の展示会場のすぐ隣の部屋では工房見学会場があって、絵付けの様子をみることができました。(写真撮影は禁止されています。)
ジョルナイ家の霊廟
1900年にジョルナイ・ヴィルモシュが亡くなった後、義理の息子が設計をして建てられたのがジョルナイ家の霊廟。工場で働く従業員たちが、亡き創業者のため霊廟の建設に関わったそうです。
正面の入り口から入ると上の階は礼拝堂になっています。
裏の入り口の階段は、エオシン釉薬を使った美しい石棺と32個の棺室のある埋葬室へと続きます。
ジョルナイ家の人々がここへ埋葬されたものの、墓荒らしの被害に遭い保存状態が良くなかったため、現在実際に眠っているのはジョルナイ・ヴィルモシュとその妻、そして息子のミクローシュの3人だけです。
ジョルナイ家の霊廟へと続く坂道には、42体のライオン像が飾られていて迫力があります。
手袋工場
ジョルナイと直接関係はないのですが、ペーチは手袋製造でも150年の歴史があり、高品質の手袋を現在でも作り続けています。
工場内には展示スペースがあり、過去から現在までの手袋のデザインや製作過程、歴史について学べるようになっています。
写真撮影は禁止されていますが、職人が昔ながらの手作業で革手袋を製作する様子も見学できました!
手袋の販売コーナーもあり、手袋1組25,000フォリント(約10,000円)程度から販売されています。
ボービタ人形劇場
元々ジョルナイ家の住居であった建物が、現在は公共の「ボービタ人形劇場」および大人向けのプログラムやワークショップの会場として利用されています。
上の階の展示室の見学が可能。ハンガリーの人形劇作家・人形デザイナーで、ペーチでボービタ人形劇場を創立したKós Lajos(コーシュ・ラヨシュ)の写真と、人形たちが出迎えてくれます。
ショッピングとお土産
ジョルナイショップ
テーブルウェアや花瓶などの、正統派のジョルナイ製品を販売しているお店です。
気軽に買う感じのお土産はあまりないですが、小さな小物入れは30,000フォリント(約12,000円)程度のお値段から販売されています。
カップ&ソーサーのセットは50,000フォリント(約20,000円)〜です。ジョルナイファンのみなさんは、ぜひ立ち寄ってみてください。
職人の店通り(地元の小売店)
ジョルナイとは直接関係はないのですが、地元の小売店が並ぶ通りがあります。
立ち寄らせてもらったチョコレート屋さんには、チョコレートでできたジョルナイ風の花瓶(!)が飾られていました。
その他、キャンディー屋さん・小物屋さん・パン屋さんなどが出店しています。
手袋工場
手袋工場内には手袋の販売のほかに、小さな小物コーナーもあります。
小物好きの日本人のハートに刺さりそうな、上質な皮でできた素敵なグッズが売っていました!
お値段はそこまでかわいくないのですが、個人的にはジョルナイ文化地区内で一番気になるお土産物コーナーでした。
カフェとレストラン、宿泊施設
ジョルナイ文化地区内のレストランは2ヶ所あります。1つはジョルナイ家と工場の歴史の展示会場の隣、もう1つは橋を渡った向こう側の駐車場の隣です。
カフェは人形劇場の入り口(着席してないですが、いい感じの雰囲気でした!)にあり、そのほか職人の店通りのチョコレート屋さん(席数は少ないです)などでも休憩できます。
ジョルナイ文化地区には実は宿泊施設もあります。シンプルな客室もしくはキッチン付きのアパートメントもあり、比較的お手頃価格で、偶然話をした受付のスタッフさんもすごく丁寧でした。ただ、ペーチの街の観光もしたい場合は、市内に泊まった方が便利かなと思います。
ジョルナイ文化地区へのアクセスと営業時間など
住所 | Pécs, Felsővámház u. 52, 7626 |
アクセス | ペーチの街の中心からバスで2駅程度(セーチェーニ広場から徒歩20分) 2, 2A, 4, 4Y, 13, 14YのバスなどでZsolnay negyed停留所で下車、ジョルナイ文化地区の入り口まで徒歩1分 |
営業日 | 火曜日〜日曜日 祝日は休みの場合あり |
営業時間 | 季節によるので公式ウェブサイトを要確認 10:00〜夕方くらいまで(16:00, 17:00, 18:00など) |
定休日 | 月曜日、一部の祝日(公式ウェブサイトを要確認) |
公式ウェブサイト | https://www.zsolnaynegyed.hu/en |
ジョルナイ文化地区のまとめ
ジョルナイ文化地区は、ペーチの歴史と芸術が織り成す独特の空間です。
かつてのジョルナイ陶磁器工場が文化の中心地へと生まれ変わり、美術館やギャラリー、カフェなど、訪れる人々に多彩な体験を提供しています。
ペーチの滞在で時間が取れる人には、ぜひ立ち寄ってもらいたいおすすめの場所です!
共通チケットを購入したら、見どころスポットを全て網羅することができますよ。
エオシン技法の美しい陶器や職人の技が今も息づくこの場所で、ペーチの魅力に触れ、心に残るひとときを楽しんでみてください。
以上、参考になる情報があれば幸いです。
ペーチの街には見どころがたくさんです。ペーチの観光情報はこちらからご覧ください!